ここは何処だ、とソラは考える。
見慣れない景色。
辺り一面野原が続いて、西には森林、東には険しい山脈がどこまでも続いている。
ソラはぼんやりと考える。
昼に朝ごはんの残りの昼食を食べて、トランプタワー作って、ちょいと漫画を読んで、
その後暇だったからモンスターファームのゲームして、眠くなったらそのまま寝た。
そうだ、これは夢なんだ。
ソラは野原を歩き出した。
わざと大袈裟に歩いていたら、石に躓いて、ど派手に転んだ。
しかも顔面から、だ。
……かなり痛い。
痛いということは、これは夢じゃないのかな?
よく漫画とかアニメであるみたいにほっぺたをつねる。
やっぱり痛い。つねったところが熱くジンジンとする。
とたんにソラは不安にかられた。
ここは何処だ、とソラは何度目かの同じ質問を考える。
ソラは再び野原を歩き始めた。
さっきの痛みを教訓として、下を見ながらとぼとぼと歩く。
今度は下ばっかり見てたせいで前方に気付かず、頭から木にぶちあたった。
あまりの痛さにソラはうめく。さっきは顔、今度は頭。
きっと自縛霊に呪われているに違いない、などと馬鹿げたことを考えながらソラは顔を上げた。
顔を上げると、森が目の前に広がっていた。
巨木がたくさん生えていて、ツタが幹に絡まっている。
さっきは結構遠くに見えた森についたということは、
色々とぼんやり考えているうちに結構歩いていたようだ。
森に一歩はいるとヒヤッとした空気がした。
芝生の生えた緑の大地を踏みしめ歩く。
野鳥がさえずり、木漏れ日が暖かい。
何時間か歩いたところで、ソラは川辺に着いた。
ノドがカラカラに乾いていたソラは、夢中で水を手ですくって飲んだ。
冷たい水がノドをすーっと通っていって気持ちいい。
不意にガサッと音がした。
ソラは立ち上がると辺りを見回した。
何の姿も見えないが、何かが茂みに隠れているのかもしれない。
またガサッと音がした。
その後も音が続く。
何かが押し寄せてくるような音だ。
冷や汗が垂れる。
強く握り締めた拳は汗だくだ。
音がだんだん近く、大きくなってきた。
怖くて動けない。
その場に根を生やしたように立ちすくむ事しかできない。
音はいったん止んだ。
長い静寂。
きっとあの音の主はどこかにいったんだ。
ソラは押し殺していた息を吐いて、ほっと安心した。
と、その時だった。
いっせいに何かが現れた。
真っ赤な巨体に鋭い牙。
ドラゴンだ!
一匹のドラゴンが急に襲い掛かる。
避ける暇もない。
体当たりをくらい、ソラの軽い体が吹っ飛ぶ。
宙にほうりだされてその後どぼんっと川に落ちる。
川の底石に全身がぶつかってかなり痛い。
一気に空気をがぼっと吐いてしまいソラは慌てる。
意識がもうろうとして、目の前がかすむ。
苦しくて暗い。
強い流れに抵抗できず、落ち葉のように流される。
そして意識が無くなった。
目を開けたソラは夢かと思った。
ソラは簡素な服を着せられ、毛布に包まれていた。
目の前には焚き火の炎が揺れている。
最初は意識がまだもうろうとしていて、すぐにまた眠った。
二度目起きてみると頭は結構すっきりしていて、体力も少し戻っていた。
焚き火の近くにはソラの服が乾かされ、その横で少年が料理をしていた。
ソラは上体を起こす。と、後ろから声がした。
「セイル、コイツ起きたみたいだぞ」
振り向こうと思ったソラだが、頭が痛んで顔をしかめる。
「無理すんなよ。寝てなきゃ駄目なんだぞ」
目の前に現れた声の主に、ソラは驚いた。
てっきり人間だと思っていたのにそれは、ガルゥ、と呼ばれるモンスターだった。
「丁度いい。料理もできあがったみたいだしな」
セイル、と呼ばれる少年が一つの木のお椀を持ってやって来る。
鈍い色の金髪に青い目。歳はソラとそう変わらなそうだ。
「オレ様特製モークススープ! 元気が出るぞ」
美味しそうなスープではあるが、今は気分が悪すぎて今食べる気がしない。
「いらない……食べたら戻しそう……」
「そっか。じゃあここ置いとくから食べれそうになったら食べろよ。体暖まるから」
お椀をソラの横に置いたセイルは、焚き火の側に座る。
ガルゥも側に座って、焚き火を囲むようにして二人は料理を食べ始めた。
黒パンを頬張っていたセイルが、ソラに質問する。
「お前何って名前なんだ?
オレはセイル。嫌な名前だよ、ホント……。『帆』だなんてダサイいよな」
セイルはむすっとした顔をすると、スープのモークスキノコをガジガジとかじった。
「で、オレの隣にいるのが、相棒のガルゥ! チビだけど、強いんだぜ!」
「ボクの名前はソラ。助けてくれてありがとう」
そーそー、とガルゥが思い出したように言う。
「それにしてもびっくりしたぞ。お前川に流されててさ。
呼んでも返事しねーから、死んでんのかと思ってヒヤッとしたけど、生きててよかったぞ。
今度から川に落ちないように気をつけろよなぁ」
「川に落ちたんじゃないよ! ドラゴンに襲われたんだ!」
ソラは大声を出す。とたんにのどが痛んで咳き込んだ。
「あぁ、あの川の上流らへんはドラゴンの縄張りだからな。
迂闊に入らないほうがいい。オレも1回襲われた事があったな」
セイルが水筒を渡す。
冷たい水をゆっくり飲みながらソラは聞いた。
「あのさ……ここはどこなの?」
嫌な予感がする。
セイルとガルゥは顔を見合わせる。
その後セイルがあぁ、と言って、手を叩いた。
「お前は遭難者か? ここはモークスだ。
ここを南に抜けるとゴートに着く」
「そうじゃなくてさ!」
ソラはあーっといって頭をかく。
「ここがモンスターファームの世界か、ボクの世界ってことだよ!
ドラゴンとかガルゥがいるってことは、ここは……ここは、モンスターファームの世界だってことだよね?」
モンスターファーム? とセイルは怪訝な顔をする。
「お前の故郷ではこの大陸をそう呼ぶのか?」
「僕は別の大陸からきたんじゃない! 別の世界から来たんだ」
一瞬の沈黙。
その沈黙を真っ先に破ったのはガルゥだった。
「コイツおもしれーこと言うな。セイルが昔読んだ絵本よりおもしろいぞ!」
「本当だよ! 信じてよ!」
ムキになるソラに、セイルが笑いながら分かったよ、と言う。
「お前は冗談言いそうな奴じゃなさそーだしなぁ。
でも完全に信じてはないぜ? 証拠とかあるか?」
あれ!とソラは干してある服を指差す。
「あの服なんかここの世界では見ないだろ?」
それを見てセイルはうーんと顎に手をあてた。
ガルゥがじゃあさ、と身を乗り出す。
「じゃあさ、ここはどこの世界なんだよ? つまりソラが言う世界でさ。」
「ここはね、僕たちの世界ではゲームの世界なんだ。
『モンスターファーム』って言うゲームの」
げぇむ? とガルゥとセイルは顔を見合わせる。
「その『げぇむ』ってなんだ? 本か?」
「違うよセイル。ゲームて言うのはね……」
ソラは言葉を切る。
ゲームをいざ説明するとなれば困難だ。
「とにかく、ボクは別の世界から来たんだ。
君達が知らない世界から。わかった?」
ぽかん、とセイルとガルゥはしている。
「あんまり信じらんねー話だな。
まぁお前がどこから来たかはいいけどさぁ……お前身寄りはいるのか?」
「別の世界から来たのに身寄りなんていると思う?」
ソラはフン、と鼻を鳴らす。
しかしセイルとガルゥはそれを聞いてやったとばかりにニヤニヤしている。
「ソラ君、オレ達は一体こんな森の中で何をしていると思いますかな?」
あまりに唐突な質問にソラは怪訝に思いながらも考える。
「キャンプか何かかな?」
「んーまぁそんな感じだけどさ……オレ達は旅をしているんだ!
色々な大陸を渡り歩き、自由気ままに生きる旅を!
そのメンバーに君をいれてしんぜよう! 行く宛てがなんだろ?」
旅、といきなり言われ、ソラはきょとんと目を丸くした。
セイルの言うとおり、確かに行く宛てがない。
そして、それより、ソラはこのドラゴンのいる森から早く抜け出したかった。
「ありがとう! ぜひ、仲間に入れてよ!
それで今はどこを目指しているの?」
セイルは手に持っていたスプーンで、あそこだ、と北を指差した。
スプーンの先には高い山がそびえ立っている。
頂上には雪がかかっていて、険しく寒そうだ。
その山の方を向いたまま、セイルが言う。
「これからとっても、さむーい所に行くんだ」
セイルが、こっちを振り向いた。
そして歯を見せて、にかっと笑う。
「ここよりずっと北の、ブリリアに!」