ソラ達はゆったりと緑が広がる平原を歩いていた。
ブリリアに比べてどんなに歩きやすくて、気持ちがいいか!

ふわっと顔をなでる風はやわらかいし、温かい。
口笛なんか吹きながら、ソラは隣を過ぎてゆく景色を惚れ惚れと見ていた。

「なぁソラ。さっきから気になってんだが、その音楽なんだ?」

セイルが後ろから首をかしげて聞いた。
ソラはきりがいいところまで吹くと、振り返った。

「知らない? 『春がきた』って」

セイルがは?と言った。

「なんだよそのバカバカしい曲は」

「あぁ、ここはゲームの世界だから、知らないか」

「セイル、ソラの頭ついにイカれたな」

ガルゥがセイルの服の裾をひっぱった。

「前々から怪しいとは思ってたがな。
そうか……可哀想に……」

何の話だよ!と怒鳴るソラに、冗談冗談、とセイルが笑った。
そんな一行の目の前に、何かフワフワと湖に浮かんでいる建物が目に映る。
ソラは怒鳴るのを止めると、興味津々でセイルに聞いた。

「アレってもしかして神殿? モンスターを再生する神殿だよね!?」

「ソラ君大当たり! あれはトチカ人の神殿だよ」

オレンジ色の屋根をした巨大な神殿。
屋根の形はドーム状で、浮遊している島にしっかりと建っている。
年代物のはずなのに白い壁はちっとも汚れておらず、遠目では陽の光を跳ね返して輝いて見える。

「なんだっけ? 『新聞は一軒にしかあらず』?」

「『百聞は一見にしかず』ですよ」

ジョーカーがガルゥの間違いを正した。

「確かに。聞いてたよりこりゃあ凄い」

セイルは頷いた。

「あの神殿見に行こうよ! 絶対楽しいよ!」

そう言うなりソラは平原を走っていった。
待ってくれよ、とガルゥも後に続く。

「トチカ人の神殿か。ソラの言うとおり、面白そうだな」

セイルもソラ達の後を追って、走り始めた。


神殿への道を歩いてほどなく、ソラ達はつり橋のすぐ手前まで来た。
つり橋の前には初老、といったかんじのお爺さんが立っている。
ソラ達が来るのを見ると、出迎えるように近寄ってきた。

「ようこそ『トチカ神殿』へ。
今回は円盤石での再生ですかな?
それともモンスターを引き取ってもらいに来たんですかな?」

「引き取るなんてとんでもない! ボク達は神殿を見に来たんです」

初老のお爺さん、つまり神官はあぁ、と笑った。

「とうぞ。見学はご自由ですが、再生の邪魔はしないようにしてくださいね」

神官が道を譲って、ソラ達はつり橋を渡った。
思ったよりグラグラ揺れる。
特に重たいデュラハンさんが歩くとよろめくほど揺れた。

「うひょー! グラグラ面白いな!」

ガルゥがつり橋の上をとび跳ねた。
縄がきしんで、ギチギチと鳴る。
ソラは落ちそうになって縄にしっかりつかまると、その場にしゃがみこんだ。

「おいガルゥ! こんな所で跳ねるなよ!」

ソラと同じ体制のセイルがガルゥを叱った。
ガルゥはセイルの方を振り向くと、「えー?」っと不満そうな声を上げた。

「こんなに楽しいのに。ダメか?」

駄目、とソラは言った。
こんな高い所から落ちるなんて願い下げだ。

「拙者の頭が落ちたでござるよー!! ぬぁーッ!!」

ソラ達が振り返ると、頭部のないデュラハンがわーッ!っと叫んでいた。
あまりにもその姿が奇怪すぎて、ソラはおろか、セイルや怖いもの知らずのガルゥでさえぞっとした。

「私が拾ってきますよ。デュラハンさん、今何が見えてますか?」

「水が……水と魚が見えるでござる」

ジョーカーは「魚ですね」と言うとフワフワと湖へ降りて、魚がいっぱい群れをなしている場所の中へと消えた。

「頭のないデュラハンさんってホラーだよね……。
まさかこんなものに出会うなんて、夢にも思わなかったよ。」

「そうだなソラ……あんまり見ないようにしとこう……」

その時予想外に早く、「ありましたよ!」と言う声が下から聞こえてきた。
ジョーカーだ。下から急いで上ってきている。

「ありましたよデュラハンさん! 泥まみれですけど」

ポタポタと水の滴るジョーカーが、デュラハンに頭を渡した。
本当に泥まみれだ。原型が分からないぐらいまみれている。

「いかん、錆びるでござる!
誰か、拭くものを持ってないでござろうか!?」

「ハンカチならあるぜ、ガルゥの鼻かんだやつだけど。
しっかり拭いとけよ。泥くさいから」

セイルがポケットの一つから、くしゃくしゃのハンタチを取り出して投げた。
デュラハンは急いでそれを受け取ると、物凄い勢いで拭き始めた。

ソラ達は揺れがおさまるのを待つと、つり橋を渡るのを続けた。
今度はガルゥも飛び跳ねない。
やっと地面を踏んだとき、ソラとセイルは心底ほっとした。

「いやぁ近くで見るともっとすごいな。ここで再生するんだな」

セイルが感嘆の声を漏らした。
古い石畳が敷いてあるこの場所。
一人の神官が円盤石を石畳が続く広い場所の中心に、丁寧に置いている所だ。
ブリーダーだろうか。少年がワクワクしながらそれを見ている。

神官はソラ達に気づくとにっこりと笑った。

「再生するところを見ませんか? もっと近くに来ても構いませんよ」

「見る見る!」といってソラが駆け出した。
その後を、ガルゥが「やった!」と言って続く。
セイルもワクワクしながら近寄った。

「それでは再生します」

神官がそう言うと、「バース!」と声を張り上げた。
それと同時に、円盤石グルグルと回り始める。
そして急に青く光かったかと思うと、強い風ともに浮かび上がった。

ソラは目の前で起こることを、まるで魅せられたかのように見ていた。
皆も一緒だ。ガルゥもセイルも、デュラハンもジョーカーを食い入るように見ている。

浮き上がった円盤石は、シュッと音を立てて猛スピードで石像に突っ込むと、石像の口のにガッとはまった。
石像の目がカッと青白く光る。
その目から出る光が、目の前の台座を照らた。
台座の周りに風が渦巻き、まるでベールのような光がぼうっと灯り始める。

と、そのとたん強い閃光が走ると、モンスターの鳴き声がした。

「やった! スエゾーだ!」

男の子はスエゾーに抱きついた。
生まれたばかりのスエゾーは、何が何だか分からずに、キョロキョロと辺りを見回している。

「すっげえな。セイルもオイラのことこうやって再生したのか?」

「うーん、近いけど少し違うかな。エージでは機械を使って再生するし」

「トチカ人の再生はリューンやトーブルの街とは違うでござるな。
神の偉業としか思えないでござる」

「デュラハンさんはリューンやトーブルに行ったことがおありなんですか?」

ジョーカーが少し驚いたように聞いた。

「言わなかったでござるか?
拙者は修行の身! 色々な場所で悟りを啓いているのでござるよ」

「すごいなぁ! ボクも自分のモンスターが欲しい!」

ソラは羨ましそうにスエゾーを見ながら叫んだ。
神官がそんなソラを見ながら微笑む。

「モンスターを育ててみたいと思うことはとても良い事です。
しかし円盤石がなければ、再生はできませんね」

「円盤石が無かったら仕方ないよソラ。残念だけどさ」

セイルがソラを軽く慰めながら言った。
円盤石か。とても簡単に手に入れられる物じゃないな……

がっかりしているソラを見て、神官が「モンスターが欲しいなら……」と言った。

「施設のモンスターならどうですか?
この神殿にはブリーダー達と別れたり、捨てられたりしたモンスターのお預かりしているんですよ」

ソラの顔がぱっと輝いた。

「見せてください! ボク、ちゃんとモンスターを育てます!」


神殿の中はひんやりとしていた。
石造りの神殿は歩くたびにブーツの音が反響して、カツーンと鳴り響く。

この施設では、様々なモンスターが、おのおの好きなようにくつろいでいた。
中庭でプラントが光合成を楽しんでいたと思えば、何故か施設内にある鍛冶場ではデュラハンが剣作りに燃えていた。
他にもトランプやオセロをしているモンスターもいる。

「様々な年齢のモンスターがいますが、やっぱり赤ちゃんのモンスターがいいでしょう。
歳をとったモンスターは結構頑固ですからね」

そう言うと、神官がふとソラの方を向いた。

「育成は初めてですか?」

「はい、初めてです」

ソラは言った。
育成は初めてだ。ゲームでなら話は別だけど。

「こちらにお入りください。モンスターをじっくり見て選ぶといいでしょう。
ただし、おどかしたりはしないでくださいね」

ソラ達は指名された部屋のに入った。
クリーム色の壁紙に、辺り一面のオモチャ。
その中に、まだ小さいモンスターがわぁわぁ鳴きながら遊んだりしていた。
中には寝ているモンスターもいる。

セイルが赤ちゃんのモンスターをみながらしみじみといった。

「ガルゥもこんな時期があったなぁ。夜鳴きをあやして、ミルクもどきを温めて……。
父親になったのかと思ったよ」

ソラは色んなモンスターを見て回った。
タコピ、ナーガ、サイローラ……。

「ここはやっぱり初心者ということでロードランナーかな……。
それとも育てがいのあるスエゾーがいいかな……」

ソラがうむむと考えている中、ぴとっと一匹のモンスターが足にくっついた。
ソラは視線を足元に落とした。
モッチーだ。でも普通のモッチーと違って、肌が白い。

「この子はここじゃ見ないモンスターですね。
甲羅の色が緑ですから、スッチーでもないようですし」

ジョーカーが不思議がりながら言った。

「これはシロモッチーでござるな。トーブルで見たことがあるでござる。
ソラ殿、レアモンでござるよ」

デュラハンが頭をまだハンカチでゴシゴシ磨きながら言った。
これがレアモン?ソラはシロモッチーの間の抜けた顔を見た。
そんな威厳は全然感じられないけど……

「あぁ、それは他の土地から来たブリーダーが置いて行ったモンスターですよ」

神官がシロモッチーに気づいて言った。

「そのブリーダーも黒い髪をしてましたからね。見間違えてるのかもしれませんね」

ソラはひょいとシロモッチーを持ち上げた。
ぷにぷにとしたモッチーをなでる。

「ボク決めました。このシロモッチーを育てたいです!」

神官はうなずくと、微笑んだ。

「そのモンスターもなついてますからね。それがいいでしょう。
さて、そのモンスターに名前をつけてください」

名前?ソラはシロモッチーを見た。
確かにシロモッチーじゃあ芸がないよなぁ……

「シロモッチーだし……シロモッチー……」

ソラはうーんと考えた。

「シロってどう!? 一見単純そうな名前だけど、心に響く何かがない?」

ソラがキラキラとした目で皆の方を振り返った。
セイル達は「え……」と思った。
シロ…犬じゃないのに……

「お前それ、ライガーをライちゃんって呼ぶのと一緒だぜ……」

「うん! シロがいいね!
シロモッチー、今日から君の名前はシロだ!」

ソラはセイルを無視して「シロ!」と何度もシロモッチーの名前を呼んだ。
セイルはつまらなそうに鼻を鳴らした。


夜。
神殿より少し離れた場所にある平原。

夕食も終わって焚き火の周りでお茶を飲みながら、ソラ達はおのおのくつろいでいた。
ガルゥは火より少し遠いところで、毛布に包まってよだれをたらしながら寝ている。

正式な手続きの後、ソラはシロのブリーダーになった。
今ソラはミルクをシロに飲ませているところだ。
シロはたまに「じょっ」と鳴きながらミルクを飲んでいる。

「なんで『じょ』なんだろうな。普通『ち』じゃないのか?」

セイルがシロを覗き込みながら言った。

「いいじゃない、個性があって」

ソラはシロが可愛くて仕方がないようで、
シロはプハッとミルクもどきを飲み終わると、ソラの膝からひょいっと降りて、ぺたぺたと歩き回り始めた。
茂みに虫でも居たのか、ガサガサと茂みの中を入っていく。
ソラはシロの背中に声をかけた。

「あまり遠くへ行っちゃ駄目だよ。
あっちは暗いから転ばないようにね」

シロが散歩に行ってから数分。
ソラとセイルはお茶を飲みながらデュラハンはお茶を飲んでも錆びないのか、とヒソヒソ話をしていた。
いきなりシロは慌てて茂みから出てくると、ソラにがっしりと抱きついた。
シロはガタガタと震えている。
ソラはシロをなでると、驚いて聞いた。

「どうしたのシロ?」

デュラハンがムッ!?と言うとバチンと剣の鯉口を切った。
ジョーカーもハッとすると釜を素早く手にとった。

「うぬぬ! また新たな敵の刺客っ! 正々堂々と姿を見せるでござるよ!」

一瞬の静寂。
その後、草根を掻き分ける音とともに、2人の人影が現れた。

「はっはー! 新たな敵の刺客こそ、我らテラードッグ盗賊団のギルディ様と」

「ランフォード様ってなっ!」

オレンジがかったボサボサの赤毛に、鋭く光る群青色の目。
片方は赤いチョッキを着ていて、もう片方は黄色のチョッキを着ている。

双子の盗賊!
セイルは舌打ちすると、ガルゥにコツンと小石を投げて起こした。

以前すれ違った旅人に聞いたことがある。
盗賊の兄弟のギルディとランフォード。
せこい無銭飲食と珍しいモンスターを盗むことで知られている。

「うほほ! めずらしいモッチーがいるぜ。ここまで来たかいがあるってもんだなっ!」

ランフォードが手を叩いて喜んだ。

「こりゃあ盗みがいがあるってもんだ。なぁ、ランフォード?」

ギルディがちらりと他の方向に視線を投げかけた。
すると、茂みの中から二匹のモンスターが出てきた。

黒い体に赤い目のライガー。テラードッグだ。

「こいつはオレが手塩にかけて育ててるテラードッグのラッグだ。
そんじゃそこらのモンスターなんかと違うってな」

ランフォードは意地の悪い笑みをうかべながら、黄色いスカーフをしたテラードッグの毛並みを撫でた。
ラッグがソラ達に牙を向いて唸る。

「そしてこいつはオレのテラードッグのテッドだっての。やる気を出せば強いんだぜ。
どうやらお前たちはついてねーみたいってな、ほら見ろ」

ギルディはテッドを指差した。

「今日はやる気満々だ」

テッドはかーッとのどを鳴らすと、地面に唾を吐いた。
ソラ達は「どこが……?」と思ったが、ギルディが自身たっぷりに笑っていたので、あえてそっとしておくことにした。

「丁度いい。ソラ、モンスターバトルを教えてやるよ。
チーム組んでやろうぜ」

セイルの言葉に、ガルゥが敵の前に意気揚々と飛び出していった。
ソラはシロを見た。

シロはまだ赤ちゃんと言っていいぐらい小さい。
いくらガルゥとチームを組むとはいえ、大怪我をするかも知れない。
しかしそんなソラの心配とは裏腹に、シロは意気込むと、ガルゥに続いていった。
意気込んでいるようで、拳をぶんぶんと振り回している。

「そんなセイル殿! 拙者たちはカヤの外でござるか!?
拙者も格好いいところを見せたいでござるーっ!」

セイルはデュラハンを無視して、ソラに言った。

「いいか、間合いをちゃんと見ろよ。それと、大声で技の名前を言うんだ。
確かモッチーが使える技は……」

「大丈夫だよ、セイル。
ボクも伊達にゲームでSランク言ってるわけじゃないしね。」

セイルがわけが分からない、といったような顔をしたが、前に向き直った。
いよいよ、バトルの始まりだ。

「シロ、『もんた』だっ!」

ソラは叫んだ。
シロはソラの声が聞こえたらしく、体を動かした。
くるっと顔をこちらに向ける。そして――

首をかしげた。

「意味不明状態ぃいっ!?」

ソラは頭が真っ白になった。
セイルはテラードッグが攻撃する前に、ガルゥを前に出した。

「交代、交代! ガルゥ、あのライガーをやっつけろ!」

ガルゥは勢いよく飛び出すと、いきなりラッグに噛みついた。
不意打ちをくらい、ラッグが思わず怯む。
テッドはギルディの後ろに隠れ、その様子を遠巻きに見守っている。
それを必死にギルディがフィールドに出そうとしていた。

「何だお前! ちゃんと試合にでろっつーの!
オレの後ろに隠れるな……って、いだーッ!」

ギルディがいきなり大声で叫んだ。
右足にテッドが噛み付いている。
ガルゥはありゃ、と頭を掻いた。

「セイル、あのテラードッグ、やってらんないぜ!って言ってるぞ」

「モンスターをちゃんと手なずけれてないみたいだな。こりゃぁ、意味不明以上に問題だ。
勝負は見えてるんじゃないか、お二人さん?
しかるべき所に入ってもらおうか」

セイルがニヤリと笑いながら言った。
ランフォードはガルゥと、その後ろにいるデュラハンとジョーカーを見た。

ラッグだけで3体も倒すことはできない。
ランフォードは顔を顰めた。警察に捕まるなんてまっぴらごめんだ。

「くそっ! 覚えてろ!
そのレアモンは絶対盗んでやっからな!」

ランフォードがそう叫ぶといきなり地面に何かをバンッと叩きつけた。
黄緑色の煙がブワッと辺り一面に広がる。

「今のうちにずらかるぞ、ギルディ!」

ランフォードはギルディに駆け寄ると、素早く助け起こした。
煙幕越しに、バタバタと逃げる足音が聞こえる。
セイルはゲホゲホと煙に咳き込みながら怒鳴った。

「逃がすもんか! 待て!!」

突風で煙幕の煙がさぁっと消えた。
盗賊の兄弟の姿はない。
セイルは悪態づいた。

「なんでしょうね、あの盗賊。
煙幕で逃げられちゃいましたけど」

ガルゥが地面を見てあっと短く叫んだ。

「危なっ! 画鋲が撒いてあるぞっ!」

「まきびしのつもりかな……」

ソラは画鋲をブーツの先で払った。
地味に嫌なまきびしだ。

「また来るって言ってたね。どうしよう、セイル」

ソラの言葉に、セイルは鼻を鳴らした。

「どうしようだって? 今度こそやっつけるに決まってんだろ!
それまでにソラ、シロを強くしておけよ!」


「おい、ランフォード。オレのガム、知らないか?」

森まで全力疾走で逃げてひと段落したギルディが聞いた。
スボンのポケットに確かに入れてたはずなんだが。

ギルディはポケットをひっくり返した。
バラバラとポケットの中に入ってた小銭やガラクタが地面に落ちる。
ランフォードはぜいぜいと荒い息をつきながら、面倒くさそうにギルディの方を向いた。

「落としたからなんだってんだよ。ガムぐらいまた買えばいいってーの」

「いや、あのガムなかなか売ってなくってな……すっごく美味しいガムだったんだっけど……」

ギルディは上着のポケットもひっくり返した。
ギルディの赤いスカーフをしたテラードッグが、口をくちゃくちゃいわせている音が遠くで聞こえる。
甘酸っぱいレモンの香り。そう、こんなかんじのガムだった……

「おいテッド! 何オレのガム食べてんだって!」

テッドはガムで風船をつくった。
口元には不適な笑みが。

ギルディとテッドが喧嘩してるのを無視しながら、ランフォードは近くにあった岩に座った。
顰め面をしながら、考え込む。

「あのガルゥ、強そうだってな」

ランフォードは独り言をつぶやいた。

「それにあのジョーカーとデュラハン。
あいつらも手強そうだっての」

ランフォードはラッグの毛並みを撫でた。
ラッグは気持ちよさそうに、目を細める。

「あのシロモッチーを捕まえれば、大金持ち間違いなしだってな。
お前はオレの為にアイツらを倒してくれっだろ、ラッグ?」

黄色のスカーフのテラードッグが、ワン!と返事した。