「オレの世界じゃ、書初めっていうのを新年にやるんだぜ。
その年の抱負――目標なんだけどな――を、半紙に書くんだ!」





「できたっチー!」

モッチーは墨まみれの顔をあげた。
満面の笑みのようだが、ゲンキには真っ黒すぎてよく分からなかった。

「モッチー、それは手形やないか」

スエゾーはモッチーの半紙をのぞきこんで笑った。
先ほどからスエゾーは、本人曰く、テレパシーで筆を動かしている。
だが、誰も動いたところを見た者はいなかった。

「オレも、できた」

ゴーレムは嬉しそうに笑うと、半紙を持ち上げた。
勢いあまって半紙がバァン!と真っ二つに千切れた。

「フン、オレ様もできたぞ」

ライガーは得意げに――そして、しっぽを嬉しそうにぱたぱた振りながら――胸を張った。
筆の変わりにたてがみで文字を書いたので、パンダよろしく、あちこち真っ黒だ。

「まぁ、ライガー上手ね」

ホリィはライガーの書初めを褒める。
横からそれを覗いていたハムが、ふんっとせせら笑った。

「これは字じゃないですな、象形文字ですな、いやはや」

「そこまで言うなら、お前のを見せてみろ!」

むっとするライガーの前に、ハムは余裕の笑みで半紙を突き出した。
巨匠さながらの流暢な行書体。

「うわぁ! すんげーっ!」

「まぁ、器用なのね、ハム!」

ゲンキ達は目を丸くして、身を乗り出した。
ハムはいやいや、と謙遜してみせながら、胸をはる。

「まぁ、我輩にしてみればこのくらい……って、わーっ!」

ハムは半紙を見て大声を上げた。
パンダライガー ――パンダーが――無言で半紙に頭から突っ込んでいる。
角には無残な半紙がぐさり。

「何してるんですか! 何を突き刺してるんですか!」

「喰ってやる!」

「何ですと!?」

パンダーとハムは取っ組み合いをし始めた。
すずりがとばっちりを受けて、ぽーんと高く飛ぶ。

「……ゴー」

すずりはゴーレムの半紙に不時着し、半紙を真っ黒に染めた。

「ホリィはできたんか? 見してぇな」

うん、とホリィはスエゾーに半紙を渡した。
半紙には小さく綺麗な字で、「お父さんを助ける」と書いてある。

「こ、こんな時まで父さんの心配なんて、健気や……」

スエゾーは感動して、目にしっぽをあてた。
大きな目玉から、涙がどっとあふれる。

「……ゴー」

ゴーレムの半紙に涙が飛び散り、半紙の文字がにじんだ。

「ゲンキは抱負は書けたの? 見てもいいかしら?」

「ああ、いいぜ!」

ゲンキは鼻を指でごしごしと擦りながら、半紙をホリィに渡した。
鼻下に墨のあとがついて、チョビヒゲのようになっている。

ハートばくばく。

半紙にでかでかと書いてある。
半紙いっぱいに書いてある。
ゲンキは楽しそうに意味を説明し始めた。

「これにはな、深い意味が込められていて……。
ハートばくばくの『ばくばく』には膨らむ夢、希望、スリリングな冒険が――って、あれ?」

ふとゲンキが顔を上げると、そこには誰もいなかった。
皆は羽子板を片手に、すたすたと玄関に向かっている。

「待ってくれよー、置いてかないでくれよー」

ゲンキは慌ててその後を追いかけた。