「うわ〜……混んでますね〜キューさん」

「皆さんもチョコを買いに来たんですかね?」

がやがやと賑わう食料店。
コルトとキューは、バレンタインのチョコの材料を買いに来ていた。

バレンタインは明日だ。
店は何週間も前から店内をピンクと赤で飾り付け、ショーウィンドウにはチョコが可愛らしく並んでいる。

店にいる人の殆どは女性だ。
所々にピクシー達も混じっていて、仲間とチョコを見ながらはしゃいでいる。

そんな人の波の中に。
オレンジ色のアフロが。

「やぁ、君達か、偶然だね。
君達もチョコの材料を買いに来たのかい?」

「き、『君達も』?」

驚くキューに、ラスカルは「あぁ」っと言って笑った。

「そうだよ、僕も手作りチョコを作るんだ。もちろん、愛しのホリィさんにね」

ラスカルは「ほら」と両腕に抱えた紙袋をコルト達に見せた。
中は色んな色のチョコペンとチョコレートでいっぱいだ。

「ラヴを込めるには手作りが一番さ。既製品なんかじゃ、想いは伝わらないからね」

「で、でも、ラスカルさんって、男の人……ですよね?」

コルトはキューに小さな声で訊ねた。
ラスカルはそれを聞き逃がさなかった。
ずいっとコルトに近づいて、無理やり視線を合わせる。
まさに大接近。

「あ、あの……っ! 近いんですけど……っ!」

「君は僕が男性だから、チョコを作るのはおかしいって言いたいのかな?
愛を表現するのに性別は関係ないんだよ。
熱い想いを届けたいという気持ち。それが全てだと思わないか?」

「あのーっ! だから近いですってば〜っ!」

ラスカルは数歩後ろに下がると、コルトに迫るのを止めた。
コルトはぐったりとした様子で、ほっと息をついた。

「それに、最近は逆チョコも流行ってるから、男性がチョコを作ってもおかしくないよ。
ホリィさんにはチョコが必要なんだ。そう、チョコという名の僕の愛を受け入れるきっかけがね。
彼女はシャイだから」

「はぁ……そうでしょうか……」

「そ う な ん だ!!」

ラスカルが今度はキューに大接近しようとしていたその時、後ろからラスカルを呼ぶ声がした。

「ラ、ラスカルさん〜! 待ってくださいよ〜! 歩くの早いですよ〜っ!」

人の波から四苦八苦して出てきたのは、ペニーだった。
コルトとキューが「こんにちは」と挨拶すると、ペニーも笑って挨拶を返した。

「ペニーさんもチョコを作るんですか?」

キューがペニーに訊ねた。
ペニーは少し気恥ずかしそうに床に視線を落とした。

「え? ええ、まぁ、その、ラスカルさんが作るそうなので、一緒に作ろうかなって思って……」

「ココチーノに逆チョコするみたいだぞ」

「わーっ! 何言ってるんですかラスカルさん!!」

慌てるペニーに、コルトは「ふ〜ん?」と言いながらニヤニヤした。
ペニーは「そんなんじゃないですよ!」と珍しく大声で言った。

「ココチーノにはいつも世話になってるからあげるんです!
そ、それに、ココチーノだけじゃなくて、他のメンバーにもチョコをあげますよ!
ジータとかアルフォンスさんとか!」

「慌ててるとこがますます怪し〜い」

コルトはさらにペニーをからかった。
キューが肘でコルトをつついたので、コルトはそれ以上からかうのは止めることにした。

「それじゃ、僕達はこのへんで失礼するよ。今日はホリィさんにゴージャスなチョコを作る予定だからね。
メンバー用のチョコもたくさん作るから、余ったら明日君たちにもあげるよ」

「え! 本当ですか? やったー!」

コルトが嬉しそうに目を輝かせた。
ラスカルは白い歯を輝かせながら「ははは」と笑うと、手を振りながら出口に向かった。
その後を、大慌てでペニーが追いかける。
コルトはニコニコしながら、手を振り返した。



続く