「それでは、流しますよ」
ザルを片手に持ったコルトが元気よく言う。
ダッジ達は各々の場所に着き、返事を返した。
ずっとそうめんの流し台を作っていたダッジは、空腹だ。
つゆとフォークを片手に――「箸」というものは良く分からなかったので使わないことにした――流れてくるのを待つ。
一分経ち、二分経ち、三分経ち――
流れてこない。
「……流れてこんな」
パブスはダッジの方を見る。
ダッジはかっぽう着のパブスから業と顔をそらした。
流れてこない。
一本たりとも流れてこない。
水だけしか流れてこない。
「コルト、ちゃんと流して……って、おおい!」
パブスが前を見れば、コルトが盛大にそうめんを頬張っていた。
箸にも大量の麺を挟みつつ。
「何してるんだコルト! 何で食べてるんだコルト!」
「ぬかりましたね、先生。流しそうめんはあらかじめどの場所をとるかが大事なんですよ」
「流す奴はそうめんを食べんだろう! 私にもよこしなさい!」
パブスはザルに手を伸ばした。
コルトは、さっとザルを抱えると、パブスの魔手から飛び退く。
「嫌です! 渡しません!」
「よこしなさい!」
「嫌です!」
流しそうめんはたちまちそうめん争奪戦へと変化し、
押し合い圧し合いの熾烈な戦いとなった。
ダッジはつゆに入っている生姜とネギをかき混ぜている。
飛び込んでいくだけの余力と気力なんてものはない。
ダッジはそのまま、事の成り行きを見守ることにした。
数十分後。
争奪戦は終戦を迎えていた。
ダッジを除いた3人は満腹で、ゆったりとくつろいでいる。
――流し台、要らなかったじゃないか。
そうめんが一本も流れなかった台は、水がちろちろとだけ流れており、寂しげに夕闇に溶け込んでいる。
ダッジは腹立たしくなったが、深呼吸をして気持ちを抑えた。
「流し台、要らなかったな、ダッジくん」
パブスがお腹を擦りながら言う。
ダッジはパブスにそうめんのつゆをひっかけたくなった。
「皆さん、デザートにどうですか? スイカが切れましたよ!」
コルトがまな板に鮮やかな赤色をしたスイカを運んできた。
ダッジ達はスイカを受け取った。
「うむ、みずみずしく、良いスイカだ」
パブスはスイカを頬張りながら――あの調子だと恐らく種も飲み込んでしまってる――感想をもらす。
パブスのヒゲとかっぽう着がスイカでピンク色に染まっていたが、皆見なかったことにした。
「おいしいね、兄さん?」
スイカを口に運びながら、ウィオラはダッジの方をのぞく。
ダッジはスイカに塩をかけると、かぶりついた。
――かなりしょっぱい。
「……まあまあだな」
夜の帳がおり、星がちらちらと瞬き始めた。
スイカを食べながら、皆で空を見上げる。
「コルト、あれがモッチー座だ。よく覚えておきなさい」
「先生、あれはスエゾー座ですよ」
波乱含みの、骨折り損な一日であったけれども――
たまにはこんな日も悪くはないな、とダッジは思った。