「ボールをじゃんけんで決めるぞ」
パブスがボールを片手に言う。
ダッジは、パブスとじゃんけんをした。
「じゃんけんぽいっ! よよいのよいっ!」
「……それは何ですか」
パブスは親指と人差し指と、中指を突き出した形をしていた。
グーか、チョキか、パーなのか分からない。
「全部だ」
パブスは得意げに笑った。
「グーもチョキもパーも、全部だ」
「ウィオラ! 先攻だ!」
ダッジは足早に離れると、見なかったことにした。
いよいよ試合が始まった。
ダッジは肩を後ろに引くと、大きく弧を描いてボールを投げた。
ボールはひゅうっと唸って疾風のように飛ぶ。
パブスは腰を落とした。
両手を広げ、ボールを待ち構える。
「ふん!」
どすっという鈍い音。
パブスはボールをキャッチした。
にやり、とパブスが笑う。
しかし次の瞬間、パブスはぽーんとボールを取り落としてしまった。
「………」
こほん、とパブスが咳払いをする。
パブスはボールを拾うと、コルトに託した。
「気をつけろコルト! ダッジ君のボールは消えるぞ!」
「消えてませんでしたけど先生……」
コルトはボールを受け取りながら言った。
パブスは全然聞いておらず、水筒の麦茶を飲んでいる。
コルトはコートに向き直ると、背中を横に反らしながら、大きくボールを振りかぶった。
ドッジボール――パブス曰く、ダッジボールだが――は、ボールを見据えてキャッチすれば、なんのことはない。
普通のボールなら、の話しだが。
「わ!」
ダッジは咄嗟に地面に伏せた。
頭上すれすれを、ボールがびゅうっと風を切り裂きながら通過する。
後ろでボールがフェンスにぶつかって、がしゃん!と物々しい音を立てた。
「……避けましたか」
コルトは舌打ちをした。
危ない。この球技は危ない。
ダッジは危機を覚えた。
「情けは人のためならず」
いつの間にかボールを拾ってきたパブスが、ぽんっと外野からダッジの背中にボールを当てた。
ダッジは外野に行きながら、命拾いをしたと思った。
「よくも兄さんを当てましたね。許しませんよ!」
ウィオラはボールを持つ手をぐっと後ろに引き、ボールを振りかぶった。
疾風のように、ボールが剛速球で飛ぶ。
コルトはすんでのところでボールを避けた。
が、後ろにいた外野のダッジは流れ弾が顔面に直撃した。
「なかなかやりますね、ウィオラさん。でも負けませんよ!」
ボールを拾ったコルトは、高速の球をウィオラに投げ返した。
ウィオラが後ろに滑りながらも、それをキャッチする。
「私だって負けるつもりはありませんよ!」
ウィオラは威勢良く言い返すと、コルトにボールを投げた。
「なかなか勝敗が決まらんな」
夜の帳が下り、星がちらちらと瞬いている。
勝負の行方はまだ見えておらず、コートでは熾烈な戦いが今なお続いていた。
土手に避難しながら、パブスとダッジはそれを見守っていた。
「思いの他白熱の大会になってしまったな、ダッジ君」
パブスが軽快に笑う。
ダッジはコートの方を見やった。
……早く終わるといいのだが。
そんな思いとはうらはらに、戦いは深夜まで続いた。