サーカス内では、朝食と昼食はアルベルトが作ってくれるが、夕食は日替わりの当番制になっている。
夕食当番はその日の献立をホワイトボードに書くのが習慣だ。
そして今日、ホワイトボードにはこう書いてあった。
闇鍋。
「おい、今日の夕食当番は誰なのだ……」
「ちょっと、誰が闇鍋なんて書いたのよ……」
「なんて書いてあるの、ゴフ? ボク、難しくって読めないよー」
「なんか、不吉なこと、書いて、ある……」
「誰よ〜こんな献立立てたの〜?」
「きょ、今日の献立は、えらく珍しいものですね……」
「あれ、皆、どうしたの?」
一同が振り返ると、そこにはジュリオがいた。
ナユタはちょっとちょっと、とジュリオを手招きした。
「見て、今日の献立、闇鍋だって。誰のいたずらかしら?」
「え? いらずらじゃないけど……」
ざっと、ジュリオの周りから皆が一歩引く。
ジュリオは、怪訝そうな顔をした。
「何、どうしたの? 皆鍋嫌いだっけ?」
「い、いや、鍋は好きなのですが……ジュリオ、今日はその……別なものにしませんか?
鍋にするにはいささか暖かすぎるようですし……」
「そうかな。外は寒かったけど……」
ジュリオはそれに、と言って、両腕に抱えていたものを持ち上げた。
「皆で食べれるように、大きい土鍋も買ってきたんだ! 今までのはちょっと小さかったしね」
「あー、その、トンガリ君……」
ドッティがジュリオを止めようとする。
が、なかなか言葉が見つからない。
どもるドッティと首を傾げるジュリオの間に、ティコが割って入った。
「皆何の話をしてるの? ヤミナベって何?
甘いの? 辛いの? 美味しいの?
ボク、食べてみたいなぁ!」
「しっ! おだまりなさい!」
マレーネがティコの口を慌ててふさぐ。が、遅かった。
ジュリオはぱっと顔を輝かせると、にこにこと笑う。
「ティコ、僕、腕によりをかけるからね! うんと美味しいのを作るよ!」
皆が止めるより早く、ジュリオがはりきりながら台所へ入っていく。
皆は憂鬱そうな顔で、互いの顔を見合わせた。
「要するにだな、変な物を持ち寄らなければいいのだ」
顔を寄せ合いながらの密談。
議題はもちろん闇鍋阻止。
「闇鍋は材料を持ち寄る料理ですからね。普通のものを持ち寄れば、大変なことにもならないでしょう」
続く